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美術の授業について3人で話してみた 2021.7

特集

本山ゆかり「コインはふたつあるから鳴る」展覧会関連企画
美術の授業について3人で話してみた 2021.7

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春日井市出身の本山ゆかりさんの展覧会「コインはふたつあるから鳴る」は2021年春に開催。その展覧会の関連企画として行う予定だった「先生のための鑑賞会・座談会 美術の楽しさ、おもしろさとは?―みんなで考える図工・美術教育―」は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から中止となりました。
観客を入れない形で実施した三者対談は、教員向けの専門的なものではなく、美術そのもののイメージを覆すような、広い視野や多様な生き方を感じさせる、面白い内容となりました。そこで、誌面にてお届けします。
撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

できるかも! その後押しをしたい

――美術の元教員だった林先生と土方先生にお伺いします。美術の授業に対して、苦手意識を持っている生徒もいると思いますが、お二人はどんな工夫を行っていましたか?
土方:一学期はみんな緊張しているので、一人で集中できる〝絵を描く〟ことから始め、二~三学期は子どもたちの関係性ができてくるから、物づくりや自由に表現できるような授業をやってました。年間を通じて、子どもたちの気持ちの変化を汲み取りながら進めてましたね。
:自分が熱中できるものに気付いてほしいから、美術の授業をやってるんです。小学校で図工を体験し、中学校で美術の授業を受ける、この中学一年生のタイミングが勝負。いろんな材料、表現の方法を変え、それぞれの子が違う分野で「自分ってできるかも!」という瞬間が作れればいいなと。中学一年生で板を彫って皿を作る授業をやったんですけど、楽しいんですよ、だんだん皿が薄く削れていって。削りかすが出てくるのが、またいい。できあがる実感が湧くんです。
土方:技術的なところの上手下手というよりも、まずはやらないとできない。そして、美術は人それぞれの表現があることを認められるのが、良いところですから。
:そういう意味では、本山さんは〝線〟を大切に表現していますよね。
土方:中学時代からずっとだね。もっちゃん(本山さん)は、几帳面で自由、そういう物の見方をしていて、とても楽しそうだね。
本山:そういえば、〝面〟でとらえる砂絵は得意じゃなかったです。平面作品一つとっても、いろんな手法を試せば、自分の「できる!」を見つけられますね。

「Ghost in the Cloth(薔薇)」作品部分 撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

「Ghost in the Cloth(薔薇)」作品部分 撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

「作る、見せる」は、プラスの作用

――土方先生は、本山さんの中学校時代の担任だったんですよね。
土方:もっちゃんはどんな時も絵を描いてくれたね。合唱コンクールの表紙、宿泊学習のしおりの挿絵…。全生徒に課題として描いてもらうから、全部採用できたわけではないけれど、もっちゃんの絵はセンスが良くて一生懸命で、面白かった。美術部の部長もやってくれたね。
本山:市内の中学校美術部の合同展示を、まさにこの文化フォーラム春日井・ギャラリーでやりましたね。春日井まつりの企画展示である、中央公園でやった野外造形展も楽しかったなあ。
:そう、みんなに見てもらえる環境が大切なんですよ。作品を仕上げる大きな目標にもなるし、みんなで絵を褒め合える。人の意見や感想を聞くというコミュニケーションも生まれ、互いを認め合う場にもなる。
本山:作っている時は一人ぼっちで孤独だから、展覧会にエネルギーの発散先を求めちゃうんです(笑)。あと、学校の掲示板じゃなくて、ちゃんとした白い壁にワイヤーを使って絵を掛けるという体験も良かった。キャプション作ったりもね。世界が広がるんですよ。
:そういう意味でも、文化施設の役割って大きいね。
土方:共同で作る大きい作品は、先輩の筆の使い方を学ぶ場にもなるから、真似することで自分の力にもなるよね。

「Window(drawing4,5)」作品部分 撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

「Window(drawing4,5)」作品部分 撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

「Window(drawing4,5)」 撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

「Window(drawing4,5)」 撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

スケッチブックのやりとり

――中学時代、スケッチブックが自由課題としてあった、と聞いてます。
本山:今日、そのスケッチブックを持ってきました。たくさんあるので一年生の最初と三年生の最後だけ。これ、捨てられないんです。
土方:実は林先生が石尾台中学時代に導入されたんですよ。
:美術に関心を持ってくれる人を増やしたいと思って導入したんです。自由にモチーフを選べるし、どんなことを描いてくるか見られるしね。一人一人のスケッチブックにコメントしていると、授業が週に一時間しかなくても、その子とずっとつながっていられる感じがしてね。
本山:私も土方先生のコメントがとても嬉しかったです!
土方:このスケッチブックの良いところは、小さなサイズ感と上質な紙。描きやすいんです。自分一人だけの時間を使って描く。それを先生に見せるというコミュニケーション。こういう環境を整えることも大切です。
本山:絵や作品には、普段、その人が何に興味を持っているのかというのが滲み出てきます。制作する人にとっては日々の積み重ねがとても大切。その結晶がこのスケッチブックなんです。

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ものの見方を学び、見方を増やすことを学ぶ「美術」

:美術って、いろんなものを受け入れることを学ぶ教科。絵を描けなくても愛好できる、それは自然をみて感動する心でもいいんです。心の在り方に美術は作用するんですね。長いスパンで育まれるもので、すぐに力はつかないんですよ。
本山:その力を知るまでには時間がかかります。美術はゆっくり付き合っていくと得るものが本当に多い教科だと、今、大人になって思います。
――人それぞれ、ものの見方というのがあると思うんですが、自分の見方だけに固執するとそれ以外が受け入れられなくなって、苦しくなります。一旦冷静になって、別の見方があることを知り、自分の糧にすると、すごく楽しくなるんですね。本山さんの作品はそれを気づかせてくれます。
:さまざまな視点があることを学ぶのも、美術という教科。人生を自分で豊かにする、その処世術を身につけることができるんですね。
本山:美術は、いい作品を作ることだけでなく、生きていく力や楽しさにつながるものなんだということが多くの人に伝われば、それこそ美術の見方が変わりますね。

展覧会会場風景 撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

展覧会会場風景 撮影=澤田 華 ©︎Yukari Motoyama

進行=浅井 南(本企画担当)
テキスト=山川 愛
2021.5.15 文化フォーラム春日井・ギャラリー
※土方(ひじかた)先生の土の字は、本来は土の上に点がつきます。

林 幸秀エデュケーションアドバイザー

美術の教員として、春日井市内の小中学校に37年間勤務。岩成台西小学校の校長だった2019年3月に定年退職。同4月から、かすがい市民文化財団のエデュケーションアドバイザーに就任。


本山 ゆかり現代美術作家

1992年生まれ、春日井市出身。愛知県立芸術大学美術学部油画専攻を経て、2017年京都市立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。現在は、名古屋芸術大学・京都市立芸術大学で非常勤講師を務める。本山ゆかり コインはふたつあるから鳴る 図録通信販売についてはコチラ


土方 和美元教員

美術の教員として、春日井市内の中学校に42年間勤務し、2021年3月に退職。石尾台中学校時代に本山さんの担任および美術部顧問として指導した。卓越した美術教育の指導が認められ、平成28年度中日教育賞を受賞。