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落語は明るく! 2022.1

特集

第91回かすがい芸術劇場 三遊亭兼好独演会
落語は明るく! 2022.1

“必殺”のマクラから、古典落語の数は170超え!
サラリーマンから転職した兼好さんの素顔に迫ります。

落語は明るく!

―兼好さんの明るさの源は?
基本的に悩みもストレスもないんです。物事を深く真剣に考えない性格というか(笑)。真打になる時も、古典落語やっている人で、単純に明るいキャラクターの人がいなかったんで、狙い目かも!と思いました。師匠の三遊亭好楽からも「落語は明るく」と言われてます。

―その明るさが、落語をより楽しくさせてますね。
先輩方が工夫して築き上げてきたものですから、噺って本当によくできているんですよ。私が落語を知るのが遅かったので、自分が初めて聞いた時に感じた面白さを、他の人にも教えてあげたいっていう気持ち。「ちょっと聞いてよ!」って感じです。

お客さんよりも、こっちが相当、楽しんでるんで(笑)

―兼好さんの目指す「笑い」とは?
志村けんさんが、「お年寄りが笑ってくれれば、みんな大丈夫」と仰っていたことがあります。落語は、ある程度、人生経験を積んだ人たちの心にピタっとはまる話ばかりなので、落語をちゃんとやれば、広く受け入れられ、笑いにつながると思っています。
そして“誰も傷つかず、気持ちよく帰ってくれる落語”を目指しています。寄席には、いろんな事情の人が来られます。それなりにウケようとすると、刺激の強さが必要になる反面、誰かが傷つく可能性もある。でもね、お客さんは誰もが「笑おう」として来てくれていますから、ウケはそこそこでも“一人も傷つけない”落語を目指しているんです。今の時代にぴったりでしょ。

―落語を信頼してますね。
古典落語は「ワッ」とウケなくても、「ワハハ」が続きます。師匠から「聞き終わったお客さんが、兼好さん面白かったね、というよりも、落語って面白かったね、と言ってもらうのが一番いい」という話をよくされますよ。

―28歳でサラリーマンから落語の世界へ。相当な覚悟をお持ちだったのでは?
本当に覚悟のある人は、むしろ入りません(笑)。当時、妻と二人の子どもがいることを話すと、断られまして。好楽師匠が現れそうなところをうろちょろして、何度も思いを伝えた末、入門を認められました。

―タウン誌の編集や築地の魚河岸などの仕事をしてらっしゃったんですよね。
それらの仕事もそれなりに楽しかったんですよ。でも、性格的に飽きっぽいところがありまして。その点、落語は同じ噺でも場所が違えば、全く新しい発見がある。さらに、落語は良いも悪いも自分次第。他の仕事は、うまくいかないと人のせいにしちゃったりするじゃないですか。でも、落語は自分が全くウケなかった噺を、先輩がやるとドカンとウケたりするわけです。そんなこんなで、飽きることなく、ここまで来ちゃいました。

いまだに、面白い発見ばかり

―今でも発見はありますか?
自分も変化しているし、年齢で受け止め方も変わりますよね。例えば、ご隠居とはっつぁんの会話で「ご隠居は教養がありますね」というと「長生きしてるんでね」ではなく「お前さん方より多少、正月飾りを多くくぐってるんでね」というわけです。この言い方、いいなあ~と思うようになってねえ。

―コロナ禍で変化はありましたか?
無観客配信をやりましたけど、改めて高座にはお客さんが必須だと思いました。前座の頃、お客が入らないってことはありましたけど数人はいたんで(笑)。誰もいないと、本格的なただの“独り言”です(笑)。

―そういう経験も“必殺”のマクラになりますか?
もう職業病なんです。落語自体が社会のことを網羅しているから。これから喋る古典落語が、現代とそんなに離れているものではないってことを、短いマクラの中にどれだけ詰めてお知らせできるかということが、我々の楽しみでもあって。それが僕のオリジナリティになればいいとも思ってます。

―落語だけでなく、雑誌にイラストやエッセイを書くなど、マルチにご活躍されてますね。
昔から落書きが大好きなんです。落語に関するものを描いていると、あらためて自分はこういう風に場面を見てるんだと気づくことがあります。Twitterの絵日記も、気が向いたら続けていこうと思ってます。

―いろんな“好き”をお持ちの兼好さん。名前の由来はどこからですか?
師匠の“好”の一字を戴くこと、いままで噺家が使っていない漢字、一度聞いたら忘れない名前…と考えていまして、最後は、師匠が「兼好っぽいから」って(笑)。どういう意味なんでしょうね。後付けですけど、出身地・会津若松の後援会長が吉田さんなんです。『吉田兼好』(鎌倉・南北朝期の歌人)で、師匠が「ちょうどいいじゃねえか」って(笑)。

今の時代と変わらない、古典落語のシーン

―お客様へ向けて、一言お願いします!
落語は江戸時代の物語のように聞こえますが、今の時代と変わらないものばかりです。みなさんがどこかで経験していることが出てきますから、「ああ、こういう人いるな」っていうのを思い浮かべて楽しんでください。

取材・テキスト=三宅 有

三遊亭兼好SANYUTEI KENKO

1970年生まれ、福島県会津若松市出身。
1998年、演芸番組「笑点」などで人気を博す三遊亭好楽師匠に弟子入り。
2008年、真打昇進。
メリハリの利いた語り口、明るく温かい芸風で幅広い年代から支持を受けている。
今、チケットが取りづらい落語家の一人。


第91回 かすがい芸術劇場 三遊亭兼好独演会

2022年4月17日(日)@文化フォーラム春日井・視聴覚ホール
第91回 かすがい芸術劇場 三遊亭兼好独演会 公演詳細はコチラ