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【FORUM PRESSレポーター】新進作家支援事業 山田雅哉『エチカ』


「FORUM PRESSレポーター」による「わたしレポート」。
市民ボランティアが、かすがい市民文化財団のアレコレを紹介します。

今回は、2023年4月29日(土)~5月21日(日)に開催された
新進作家支援事業 山田雅哉『エチカ』をレポート!



Report487 【水の流れる力が生む一瞬の美しさ】みと満寿美
「美しいものをどんなに上手く絵画に再現できても、実物の魅力は超えられない」。これが山田さんの水の流れる力を借りた抽象画の出発点なのだそう。印象的だったのは、立春、立秋といった二十四節気ごとに、春日井での暮らしの中で感じたインスピレーションを描いた24枚の絵です。自然の美しさを出すため、鉱物の粉末である日本画材の岩絵具を使用。季節がそれぞれ持つ空気感、空や水の色。木々が芽吹き、田んぼに水が張られ、田植えが始まり、やがて稲穂がたわわに実る。最も寒い時期の、気持ちが縮むほどの冷気。花が咲き、月が美しく夜空を照らす。雪が舞う。そういった生活の中で得る五感が24枚+3枚の雪月花の絵に表されていました。個人的には、4月5日頃を表す「清明」や11月20日頃の「小雪」、雪月花の1枚「月」の絵が好きです。
抽象画はよくわからないから苦手でしたが、山田さんの絵を見て、ただ感じればいいのかも知れないと思いました。


Report488 【作品は、生き方そのもの】紀瑠美
作品の色合いが目をひくチラシ。「新進作家支援事業を始める」というフレーズに興味がわきます。「どういう人が選ばれますか?」。財団担当者に尋ねると、様々な人が行き交う公共施設なので”ひらかれた”展覧会であるべきで、作家自身も”ひらかれた”人であることが求められる。新しいことに挑戦した作品であることも大事、とも。
山田さんは大学で日本画を学び、新技法を生み出しました。卒業後は中学・高校で美術を教え、年1回は展覧会を開くと決めて、作家活動もしてきました。会場には、高校時代の油絵から最新作までが並び、作風の変化に驚愕。ギャラリートークでは、時々に何を求めて創ったのかなどが語られ、心惹かれました。今の自分を全部出し切ったと微笑んでいた山田さんは、会期後すぐに新作に取りかかったそう。良い作品を創るために、人生のあり方までも律して一生懸命に制作する。そんな彼の作品に励まされた人も多かったように思います。



Report489 【色のダンス】原宗也
透明なガラスのコップに入った水に絵の具を垂らした瞬間、水の中で絵の具は自由自在に踊り狂い、次第に溶けて水全体が淡く色づきます。まるで、その過程の一瞬を切り取ったような作品たちです。
会場には青系の色を感じる作品が多く展示されており、涼やかな雰囲気に包まれていました。近くで観察すると微細な粒子が緻密に描かれており、「どうやって描くのだろう?」と想像しながら鑑賞するのが楽しかったです。後に調べたところ、山田さんは「音楽の視覚化」をテーマに抽象絵画に取り組まれているとのことでした。音は奏でられた瞬間、空気に溶けてなくなってしまいますが、そのような音の儚さと同時に、力強さも見事に捉えていることに感心させられました。
この展覧会を通じて、私は絵画と音楽が交差する奇跡の瞬間に立ち会うことができたのかもしれません。会場を出たあとには、まるでオーケストラを聴いた後のような、澄み切った心地良さが残っていました。


Report490 【新技法で動く色の行方】松葉栄子
会場には85作品が展示してあり、見応えがありました。音楽をモチーフにした作品は、墨を流して描いた柔らかな曲線が音の流れのようです。色々な技法で描いた学生の頃から現在までの作品は、同じ作家さん?と思うほど変化に富み、とても刺激的でした。墨流しを応用して、山田さんが確立した「新案墨流し技法」による二十四節気と雪月花が、部屋を囲むように並べられていました。雪・月・花の3枚が並ぶ光景は、それぞれが共鳴し、キャンパスの枠を超えた広がりを感じました。使われる岩絵の具は、比重の違いがあるからこその美しさなのか、奥行きの出し方に引き寄せられます。強すぎると思った黒は、絵の中でアクセントになり、白や他の色を際立たせていました。ギャラリートークでは、人柄が表れるような丁寧な解説で、哲学にも触れて作品の奥深さを感じましたし、缶バッチ作りを体験できるワークショップもあり、感性がおおいに満たされる時間となりました。


Report491 【生まれるものと生み出されるもの】高塚康弘
入口すぐの、いろいろなアイデアを寄せ書き風にまとめた作品は、実際に山田さんのアトリエ入口に掲げられているものだそうです。絵そのものが一つの音楽であるような作品のため、用いる技法は水面に落とした絵の具が描く模様を紙に写し取る「墨流し」と「垂らし込み」。目の前で生まれる模様に反応する作業を重ねていくうちに、制御できないものに対するある種のコントロールも生まれてくるのだとか。この展覧会のために一年がかりで制作された新たな連作は、二十四節気それぞれの季節に応じて変化する色や響きをとらえたような作品。それは、学んだ日本画も、教壇での経験も、日々走る「ふれあい緑道」も、山田さんの人生と生活の様々な場面を映し出す鏡でもあるのでしょうか。
別室に流れる紹介映像では、渓谷の光の中、立てられた屏風のそばで演奏する音楽家の姿。さらに年月を重ねた時、山田さんが向き合う水面にはどんな模様が浮かんでいるでしょうか。