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【FORUM PRESSレポーター】第92回 かすがい芸術劇場 月夜のファウスト


「FORUM PRESSレポーター」による「わたしレポート」。
市民ボランティアが、かすがい市民文化財団のアレコレを紹介します。

今回は、2022年5月22日(日)に開催された
第92回 かすがい芸術劇場 月夜のファウストを4名がレポート!

Report450 【ファウストって何者?】川島寿美枝

舞台はテーブルと椅子、コート掛け、椅子に太鼓が一つ。いたってシンプルであります。
俳優、演出家、舞台美術家と多彩な才能を持つ串田和美さんの独り芝居『月夜のファウスト』。近所の居眠りおばあさんやら、紙芝居屋さんなど、串田さんの幼少期の記憶と、ファウスト博士の話がないまぜとなって芝居が始まります。中世に実在した錬金術師ファウスト博士の物語を一人多役で演じていきます。串田さんの飄々とした語り口に気持ちよくなり、時に意識がどこかへ飛んでいきそうになると、太鼓がドンと鳴って現実に引き戻されます。芝居が単調にならないよう、串田さんは太鼓以外にも呼び鈴を鳴らしたり、ハーモニカを吹いたりしてメリハリをつけます。終盤、舞台は暗くなり、串田さんはカンテラを手にして、ファウスト博士と魂を売り渡した悪魔を交互に演じます。二人(?)の会話は独り芝居とは思えないほどの迫力。サブタイトル通り、小さくて壮大な物語でした。

Report451 【人生、人間には結局何も分からない】奥村啓子

『ファウスト』は、「人間どもは神から与えられた理性をロクなことにしか使わず、努力しては迷ってばかり…」と言い張る悪魔と、常に正道を歩むファウスト博士が、「悪へ堕ちるか」「正道を守れるか」、“命”を賭けた契約を結ぶ物語。串田さん演じる博士は、コートに黒い帽子の粋とは言えない姿で登場するや、マイク無しでボソボソと話し始めます。場面は殺風景な書斎。飾り気がないだけに、想像力を掻き立てられ、どう展開するのかワクワクします。子供時代の記憶を紐解きながら、居眠りばあさん・野良犬・紙芝居屋などを次々と登場させ、呼び鈴の「チーン」を合図に話を転換。時折太鼓も打って、その響きで観客を刺激、緊張させ、飽きさせることがありません。悩む博士の人生を、愉快な人物や風物詩を織り交ぜながらたどる技は見事で、たった独りで演じ切る語りの魅力は、観劇後、より深く心に浸みました。

Report452 【空間想像の楽しさ】松葉栄子

コロナ禍で生まれた独り芝居は、タイトル通りゲーテでもおなじみの「ファウスト」が題材。開演前から舞台上は明るく、机、椅子、太鼓やハーモニカなどの小道具に興味津々。子供の頃の思い出を語るコート姿の串田さん。所作で記憶の中の人物の姿がそこにあるよう。もう芝居が始まっているの?と、ちょっと不思議な時間。薄っすらと物語を知っているだけの私は次々と出てくるファウスト、メフィストらの登場人物の個性に圧倒されていました。悪魔を選別、祓うファウストの決断力の早さと呪文が印象的。串田さんの紙芝居の記憶から生まれた「コロスケ」も不可欠な存在でした。子供のコロスケは高い声で元気よく喋ります。芝居の黒い雰囲気の中、コロスケの深く考えない言動に「くすっ」とさせられます。演じ分けは表情、動作もありますが、声の高低差は個々をよく表していると感じました。串田さんの演技で生み出される様々な背景や空間を想像でき、脳が活性化した舞台でした。

Report453 【制約の中から生まれた芝居】紀瑠美

串田さんは、“串田さん”のまま現われ、今回の芝居を作った経緯や子どもの頃の記憶を語り始めました。“今日だけの特別な話”を織り交ぜ、絶妙な間合いで笑いを誘います。テンポの良い語りに引き込まれていると、ある瞬間、「役に入った!」と感じました。くるくると演じ分け、ファウストの物語を展開していきます。中世の錬金術師ファウストは、串田さんが長年取り組んできた題材。フランスのサーカスとのコラボレーションや三人芝居など、さまざまに上演してきました。独り芝居バージョンは、コロナ禍で創作。芝居の中止が相次ぎ、もんもんと思考していた時、公園のあずまやで、ふと「ここで芝居をしてみよう」と思い立ちました。串田さんの個人史や空想を混ぜたオリジナルです。上演すると思わぬ反響があり、各地での公演に。舞台上の串田さんは本当に楽しそうで、喜びが伝わってきます。生き方まで教えてもらったような充足感に包まれました。